芦北町に町の食材を使ったクラフトビールの醸造所がことし誕生しました。運営する地元出身の３兄弟には、地域活性化への思いがありました。

芦北町にことし７月に完成したのはクラフトビールの醸造所『Ｂｒｅｗｉｎｇ１００（ブリューイングひゃく）』です。

クラフトビール造りを手掛けるのは地元出身の３兄弟。

長男の前田 一徳さんが総合プロデュースを行い、次男の一閣さんが醸造を、三男の一暢さんが設備を担当しています。

商品は全６種類。ラベルには３兄弟のイラストがデザインされています。

芦北町の魅力を伝えようと地元の梶原 紅茶やレモン、御立岬の塩などを使っています。

３人は、この場所でのビール提供を目指しながら、現在は醸造と販売を行っています。

この日は同級生の家族が店を訪れました。

【友人】
「兄が帰省してきて、そのお土産を買いに来たという感じで私もついて来ました。地元のお茶店（お茶のカジハラ）とのビールが気になっています。地元を盛り上げてくれて非常にありがたいなと思っています」

芦北町で生まれ育った３人は、進学や就職で一度は地元を離れましたが、２０１１年の東日本大震災が大きなきっかけになり芦北町に帰ってきました。

【長男 前田 一徳 さん】
「災害とか緊急時のことを経験したときに、一番思い浮かんだのが家族だったんですよ。地元の人たちやこういう景色もパッと思い浮かんで、自分が将来、人生をかけてやるものは会社ではなくて、もっと地元に貢献できるような何かが必要なんじゃないかなというのがあって、そのタイミングで何かしようと思って帰ってきました」

ただ、戻ってきた地元は自然が豊かな一方で、人口が減少。長男の一徳さんは「町づくりを支えたい」と町内で保育園や子ども園の運営を始めました。

３人で「何か名産を作りたい」と漠然と思い描いていた時、２０２０年７月豪雨が発生し、祖父が所有していたかつての宿舎の１階が浸水。この宿舎を改装し、人が集まるような場所をつくりたいとクラフトビール造りを始めました。

醸造を担当するのは次男の一閣さんです。

この日は新商品の瓶詰めを手作業で行っていました。

津奈木町の亀萬酒造で１０年ほど働いた経験があり、水分調整は日本酒の造り方を参考にしているそうです。

味わいには、どんな違いが生まれるのでしょうか。

【次男 前田 一閣さん】
「ボディーが高くなるのはそういうことなんじゃないかな。糖分も、甘みもあって重みがあるというか。でもまだまだ勉強中なので、もっとブラッシュアップしていきたいですね」

今は自家製の米を使っている商品もあり、今後も地元企業と連携し、自家製の果実などを使うクラフトビールを増やしていきたいということです。

私は『チョコレートモルト』という高温焙煎された麦芽を使用している『土偶セゾン』を試飲しました。

【土偶セゾン８６３円（税込み）】

【現在店では商品の販売のみ試飲はできません】

【仲野 香穂 リポート】
「では『土偶セゾン』いただきます。後味すっきりですね。見た目が黒くて重いので、もっとずっしりくるのかと思ったら、後味はすっきり。フワッと華やかな香りが残りますね」

【次男 前田一閣さん】
「土偶をイメージしたので色だけ黒くして、ダークセゾンというビールのスタイルはあるんですけど、日本じゃなかなか造っているところは少ないんじゃないかな。本当に遊び心で造っているので」

黒ビールとは思えない爽やかさを演出する一閣さんの遊び心が反映された一杯です。

将来的には醸造所の隣にバーを開きたいとしていて、現在、クラフトビールが飲めるのは三男の一暢さんが運営する熊本市中央区九品寺のバーです。

【Ｖｏｙａｇｅｒ／熊本市中央区九品寺】

今後、このバーとコラボした新たなクラフトビールを造るためにクラウドファンディングも始める予定だということです。

また、醸造所の２階には宿泊できる施設を整備していて、「人が町の外からも集まるような場所をつくりたい」といいます。

【三男 前田 一暢さん】
「芦北の景色をイメージして内装を変えているんですけど、こちらの部屋は芦北の夕日をイメージしてオレンジだったり。芦北に外から人が来ていただいて芦北を体験していただいて、また戻ってきてもらえるような、そんな場所にしていけたらと思います」

【長男 前田 一徳さん】
「ひと言で言うと「輪」。つながりの輪とか集まる場とかそういう場所であってほしいなと。余白を使う時間に私たちのビールを飲んでほしい。そういう将来をこの町で実現できればいいのかなと思います」

地元、芦北町の地域活性化のために。３兄弟の遊び心あふれるクラフトビール造りは続きます。