ＪＲ九州の観光列車『ＳＬ人吉』が３月２３日、ラストランを迎えました。現役では国内最古のＳＬ。力いっぱい走り続けたその姿と鉄道ファンや機関士たちに密着しました。

「ありがとう！」

３月２３日、約１４００人の鉄道ファンが見守る中、博多駅を出発したＪＲ九州の観光列車『ＳＬ人吉』です。

『ＳＬ人吉』の蒸気機関車５８６５４号機は１９２２年・大正１１年製造で、『ハチロク』の愛称で多くのファンに親しまれてきました。

九州各地で計約３３０万キロ、地球８３周分を駆け回り、１９７５年に現役を引退。

その後、１９８８年に豊肥線を走る観光列車『ＳＬあそＢＯＹ』として復活しました。

一度は観光列車としても退きましたが、多くの鉄道ファンの声を受けて２００９年に肥薩線を走る『ＳＬ人吉』として生まれ変わりました。

誕生から１０１年。現役では、国内最古のＳＬです。

【整備士 玉井 明人さん】
「矢岳駅から降ろしたときから連棒関係はそのまま使っている。他にもあるけど九州以外のＳＬはバルブをステンレス製に換えたりいろいろしているが、こだわりがあってハチロクは古いＳＬだから砲金製のバルブを使う」

『ＳＬあそＢＯＹ』時代から５８６５４号機を３６年間整備し続けてきた玉井さん。

今となっては蒸気機関車の部品一つ一つが特注品。

その整備にも特別な知識が必要です。

【整備士 玉井 明人さん】
「いつか会えればいいかな。もう一度、整備したい気持ちはあるが、年だから難しいかな」

肥薩線は、２０２０年７月豪雨で甚大な被害を受け、一部区間が運休。

そのため『ＳＬ人吉』は鹿児島本線を走ることになりました。

観光列車として延べ９０万人以上を乗せて走った５８６５４号機。

車体の老朽化と技術者不足などから、先月２３日での引退が決まりました。

【鉄道ファン】
「最後は肥薩線で桜と一緒に人吉に帰ってきてほしかったが、最後まで長い間走ってくれてお疲れさまでした」「ＳＬ人吉、ありがとう」

ラストランを一目見ようと熊本駅に集まった鉄道ファンの中に、機関士の制服姿の男の子がいました。

村上 一心くん、８歳。

毎週のように駅に足を運び、『ＳＬ人吉』と『ななつ星』が大好きです。

これまでも様々なイベントで『ＳＬ人吉』の出発や到着を見てきましたが、この日の熊本－博多間の１往復と翌日の熊本ー八代間の１往復でお別れです。

いつもは仲良く話す機関士とも、この日はお互いにうまく言葉が出ません。

【鉄道ファン 村上 一心くん】
「やっぱり感動した」

一心くんは『ＳＬ人吉』が停車するそれぞれの駅で最後の姿を見送ろうとお母さんと一緒に新幹線で向かいました。

黒い煙を力いっぱい吐き、汽笛を上げて走る『ＳＬ人吉』を駅や沿線で多くのファンが見送ります。

最後に停車した八代駅には、約６００人が駆けつけました。

多くの人がカメラを向けて『ＳＬ人吉』を見送る中、力いっぱい手を振る一心くん。

「最後は笑顔で見送ろう」とお母さんに話していました。

目の前をＳＬが駆け抜け号泣する一心くん。

ラストランを終え、車両センターに戻ってきた５８６５４号機は、機関士の手によってその火が消されました。

これまで共に走ってきた機関士と機関助士に見送られ、５８６５４号機はその歴史に幕を閉じました。

【機関士】
「５８６５４号機に敬意を表し敬礼。お疲れさまでした」

ＳＬ人吉の蒸気機関車５８６５４号機はＪＲ九州の古宮社長が人吉市に譲渡することを明らかにしていて、引退後は人吉市で保管される予定です。